「残高16ドルなファイル係」

くっくりりぱっと〜ゆきさき姉妹の不思議な冒険〜

丸い月が空に浮かんだ。
それを見上げた少女が姉に手を引かれて歩いている。
「ねぇ、お姉ちゃん」
妹、早紀が、姉を呼んだ。
「何?」
姉、由紀は視線を少し下げて言った。
由紀は12歳、早紀は10歳になったばかりの幼い姉妹だ。
「まだ着かないの?」
「この辺のはずなんだけどね…」
由紀と早紀は祖父の家を目指していた。
「お父さんは?」
早紀が訊く。
「さぁ、連絡まだ取れないんじゃないかなぁ。こんな森の中でガス欠だもん」
「お母さん、知らないよねぇ?」
「知らないと思うよ。だから私たちが知らせに行くんじゃない」
由紀と早紀は、父と3人で、祖父の家に遊びに行く予定だった。
母は、夕飯の買い物をしていくために、お昼には家を出たので、先に向こうについている。
祖父の家に行くには、森を越えなくてはいけないのだが、
その途中で父の車がガス欠を起こしてしまったため、二人で歩いていくはめになってしまっていた。
「すぐ着くって、お父さん言ったのにね〜」
早紀が言う。
「1本道だから、迷ってるとは考えられないし」
由紀がため息をつく。
「疲れたから、休もうか」
由紀はそういって、側にあった岩に座った。早紀も隣に座る。
「あ、人間だ」
聞き覚えのない声に、2人はビクっと肩を震わせた。
「お姉ちゃん、今、何か聞こえたよね…?」
早紀の問いに、由紀はうなずいた。
「珍しいなぁ、僕の声が聞こえるの?」
「あ…あんた誰よ!?」
由紀が叫ぶ。
「僕?僕は、クックリリパットの妖精、ケリーだよ」
「よ…妖精?」
早紀が頭の上に「?」を3つくらい浮かべる。
「嘘じゃないって」
ポンっと音がして、由紀と早紀の前に小人が現れた。
2人は唖然として、その小人を見つめた。
「僕が見える人間に会ったのは30年ぶりだよ」
小人―ケリーは笑いながら言った。
「僕についておいでよ。クックリリパットに連れて行ってあげる」
由紀と早紀は、顔を見合わせた。
「「行ってみよっか」」
子供ならではの好奇心というやつだろうか。
由紀と早紀は、森の中で止まってしまった車と父のことをすっかり忘れて、ケリーについて行った。
「こっちだよ」
ケリーはしげみの中に姿を消した。
「あ、待って!」
幼い姉妹は、小さな妖精を必死に追いかけた。
しげみを抜けると、由紀と早紀ならくぐれそうな小さな穴があった。
「ここを抜けると、クックリリパットだよ」
2人は小さな穴を抜けた。
「わぁ、すごい」
由紀が声を上げる。
風車と、緑色の小さな屋根が、桃色の花畑の中に立ち並んでいた。
「あ、人間だ〜」
小さな女の子の妖精が、由紀と早紀を見て嬉しそうに言った。
「あのね、私リリィって言うんだよ」
リリィは小さな羽根をはためかせて、2人に笑いかけた。
「私は由紀だよ。よろしくね、リリィ」
「早紀っていうんだよ。よろしく、リリィ」
ケリーは、少し前に行って、2人に手招きをした。
「こっちに来て」
由紀と早紀はリリィと一緒にケリーについて行った。
「どこに行くのぉ?」
早紀が訊いた。
「来れば解るよ」
そう言って、ケリーはいたずらっぽく笑った。
「ここ」
ケリーの立ち止まった目の前には、ひときわ大きな風車があった。
「由紀ちゃん、早紀ちゃん、中に入ってみようよ」
リリィが由紀の手を引く。
2人はうなずいて中に入った。
「わ〜きれい〜」
早紀が歓声を上げた。
中は全部水晶で出来ていて、オルゴールが鳴り響いていた。
「今日はここでご飯食べていきなよ」
ケリーの言葉に、由紀と早紀は、迷わずうなずいた。
その日の夕食には、たくさんの妖精が集まった。
ブドウのジュースに、木の実のお団子など、由紀と早紀には、少し小さな食器だったが、あまり気にはならなかった。
「楽しかった。どうもありがとう」
「ありがとっ」
夕食が終わり、由紀と早紀が立ち上がった。
「もう帰るの?」
リリィが訊く。
「うん。おじいちゃんちに行く途中だったから」
由紀が答えた。
「じゃあ、これを持っていって」
ケリーは由紀と早紀にひとつずつ水晶のカケラを渡した。
「今日のことが、夢だと思わないようにさ」
由紀と早紀はうなずいて、もう1度お礼を言った。
「「また絶対会おうね〜」」
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                  ・
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気が付くと、由紀と早紀は森を抜けたところにある切り株に腰をかけていた。
「夢じゃなかったよねぇ?」
由紀が早紀に訊く。
「うん。だって、これ」
早紀が右手を開く。水晶のカケラが光っていた。由紀の手の中にも、同じ水晶のカケラがあった。
2人は、顔を見合わせて笑った。
「あ、お父さん!」
由紀が声を上げた。
「わ…忘れてた…」
2人はもう1度笑って、すぐ先に見える、祖父の家へと走った。
                                      〜The End〜