「残高16ドルなファイル係」

よみちあゆむシリーズ
第1編 スリーピース
第1章 シライシマコト
第3話 選曲

 ライブは宙に浮いてる感じだった。一瞬、頭の中が白くなる感覚もあった。ちゃんと歌は歌い続けてるのに、
何も考えてない状態。
たぶん脳の中に麻薬物質が出てたと思う。
間違いない。これってすごい快感。一度ステージに立った人がやめられなくなる気持ちが少しわかったような気がする。
中毒症状ってやつだ。

 さて、お披露目ライブが終わるとデビュー曲決めだ。私の資料を元に、全国の作家さんから作品がノブさんの元に集まってくる。
私が大阪で普通に学生生活を送っている間に、
ノブさんが曲を絞ったみたい。デビュー曲候補は3曲。なぜか題名は3曲とも漢字2文字。
オーディションで歌った曲は、イメージが薄くなったからボツらしい。
「とりあえずカラオケ送るから、合うかどうか簡単に歌って送り返してみて。」
電話口でノブさんはごきげんだった。

 送られてきた3曲。その中に1曲気になる曲があった。曲調も妖しい感じでインパクトもあるんだけど、
歌詞が「わたしを満足させなさい」とか、「あなたを手なづける」とか・・・。
ピチピチ(自分で言うな?)の18才の女の子にこんなの歌わせる気かーっ!!って初めは思ったんだけど、
歌っていくうちに、イメージも出来てきて、私の声質にも合ってるようで、お気に入りになってきた。

 歌ったものを送り返して1週間。デビュー曲はやっぱりその曲に決まったと連絡が来た。
その曲の名は「神経」。アーティスト名はどうする?と聞かれたので、名前からMacOとしてもらうことにした。
いよいよデビューの気分が高まってきた。

 その曲を初めて歌う日取りが決まる。レコーディングする前にライブで歌ってみるということだ。
ノブさんが言っていた。
「この曲作った人は山口の人なんだけど、今度のライブ、歌ってるとこ観たいって東京まで来るみたいよ。」