「残高16ドルなファイル係」

「ハーフ・フィクション・ミュージック・ストーリー」
よみちあゆむシリーズ
第1編 スリーピース
第1章 シライシマコト 18才
第2話 はじまり
 
「レーベルの名前はスリーピースです。」
あれから1週間後、届いた合格通知にはこう書いてあった。
「プロデューサー、スタッフ、歌い手の3者でいいものを作っていきましょう。」
このレーベルでは、審査に合格した作家の人が、全国にいるということだ。
その人達にプロデューサーのノブさんが毎月発注をして、それに対して全国から作品が集まり、セレクトして曲が決まっていくというシステムらしい。
というわけで、わたしもひとまず、作家に聞いてもらうための声質資料作り。
東京に行くのかと思ったら、自宅録音で、カラオケでもいいということなので、気軽な感じで録音。
でも、これが全国に回るかと思うとちょっと緊張する。
 
「人前で歌ってみよっか」
ノブさんから電話がきた。
「うちのレーベルの大阪でのイベントがあるんで、それに出てみようよ。」
突然である。
「曲はオーディションの時の曲と、もう2曲ほどカラオケてでいいからさ。」
 
ライブの日、集合時間の10分前に大阪ミノヤホールに到着。
ノブさんやスタッフの人たちはもうみんないて動き回ってる。いや、ノブさんはでんと構えてる感じ・・・。
「おはようございます」
業界のあいさつは、それが何時でもこう挨拶する。変な感じかなと思ったけど、中に入ってみるとそう不思議な感じもしない。
ステージの上ではマイクチェックというのが行われているらしい。スタッフの人がしきりにマイクに向かって声を出しては、機械をいじっている。
「ステージの中に向いてるスピーカーがあるでしょ。あれ、モニターっていって、歌ったりしやすいように、ステージの中の人用に音を流すんだけど、その音をマイクが拾っちゃうとマイクとスピーカーで音が永遠に回っちゃうでしょ。そしたら音が増幅されてばかでかい音が鳴っちゃうんだよね。だからああやって、拾いやすい音域、周波数っていうんだけど、それを小さくして、そのかわり拾いにくい周波数をちょっと上げたりするんですよ。」
不思議そうに見ていたわたしにノブさんは説明してくれた。
「じゃあ、準備できたみたいだし、リハいってみようか。」
ノブさんが立ち上がった。