「残高16ドルなファイル係」
特別編


「エフヤマ愛の劇場・幻の脚本」
うべなまこ編

「愛の劇場」行きます。長いけどよろしくです。うべなまこ
 
「ハーフ・フィクション・ミュージック・ストーリー」
よみちあゆむシリーズ
第2編 猫曼魔にある風景
第1章 シライシエミコ 28才
第1話 やっと見つけた
 
 重い扉の開く音がする。その瞬間、バカでかい音が飛び出してくる。かかっているのは『レッドツェペリンW』のLPレコード。
(女)「やっと見つけた。」
(男)「いらっしゃい。」
 「店員さん、ひとりなんですか?」
 「マスターは下の店にいるんです。下が姉妹店なんで。。。呼びましょうか?」
 「ううん。いいです。」
 「そうですか。」
 「お客さん、いないんですね。」
 「はい、この時間はなかなか。もっと遅い時間だと増えてくるんですが。。。うちの店、初めてですよねー。」
 「はい。広島に転勤になって、こーゆー店探してたんです。やっと見つけたぁって感じ。」
 「それはありがとうございます。ところで、何にしましょうか。」
 「店員さんは何飲むんですか?」
 「まだ早いんで、ビールかな?」
 「じゃあ、私も。」
 カウンターに入るあゆむ。カウンター越しに話しかけるえみこ。
 「ねえ、名前なんて言うんですか?」
 「店の名前は猫曼魔です。看板ちっちゃいからわかりにくいですよねー。」
 「違ーう。あなたの名前。意地悪してる?」
 「(笑)ごめんなさい。ついね。よみちあゆむっていいます。」
 「そう、私はえみこです。よろしくね。」
 「じゃあ、えっちゃんて呼べばいいかな?」
 あゆむ、カウンターからせきに戻る。
 「はい、ビール。」
 ビールを注ぐ音。
 「じゃあ。」
(一緒に)「かんぱーい!!」
 「音おっきいから話聞こえづらいね。まあ、そこがいいんだけど。」
 「そうですね。音小さかったらこの店の価値半減ですから。広島に転勤って言ったけど、どこにいたんですか?」
 「東京にいたの。」
 「へぇ、生まれてからずっと?」
 「ううん。生まれ育ったのは新潟。大学から東京に出たの。」
 「そっか。新潟はさすがに行ったことないや。東京は高2の修学旅行と大学の下見で高3になる春休みに行ったくらいかなー。結局広島の大学に来たんだけどねー。」
 「ふぅん。今何歳?」
 「26歳。えっちゃんは?」
 「ふふっ秘密。店の明かり暗いからよくわかんないでしょ。。。でもよみちくんが東京行った時、私も東京にいたなー。」
 「・・・ということは年上だ。これは失礼しました。」
 「エーなんでー。あっそうか。大学生だったってことだもんねー。しまったあ・・・まっいいか。」
 「この年になったら2〜3歳の違いはそんなに気にしないってことで(笑)」
 「(笑)レコードいっぱいあるね。」
 「うん、だいたい3000枚くらいかな?今でも月に2〜3枚くらいは、中古のレコード屋で買い足すんだけど。最近はCDがほとんどだから新しいのはCDしかないんだよねー。」
 「ところで、リクエストってできるの?」
 「できるよー。何聴きたい?」
 「ジャニスのー・・・」
(一緒に)「パール!!」
 「いいねー。高校の頃はまってよく聴いてて今でも何かの時よくかけるるよ。」
 「私も大学時代よく聴いてたの。こーゆー店に来たらやっぱり聴きたいよねー。」
 『レッドツェペリンW』フェイドアウト、ジャニスジョプリン『パール』がかかる。
 「えっちゃんの好みってどんなの?」
 「うんとねー、白くて髪が長くて金髪の人。繊細な感じの人がいいな。」
 「それって僕じゃん(笑)」
 「ふふ。よみちくんの好みは?」
 「僕はかわいい感じが好みかな?えっちゃんが入って来た時、わあ、もろ好みって思ったよ。」
 「ホントにぃ?」
 「ホントホント。間違いないって。」
 「調子いいなあ。もう。」
 「ところで広島の印象はどうですか?」
 「この店見つけたから印象いいわよ。街の感じもちょうどいいにぎやかさだし。」
 「確かにねー。東京はちょっと都会過ぎる感じだし。僕は山口出身なんだけど、ちょっと不便だったりするからねー。」
 「市電とかあって雰囲気いいし。で、山口出身なんだ。」
 「そう。だから人はいいよ(笑)新潟ってどんなとこ?」
 「なんかねー、空が暗いの。人もおっとりしてるよ。」
 「東京のときの思い出って何かある?」
 「あー、新宿の中古レコード屋でね、このレコード取り合いになった男の子がいたの。結局じゃんけんで私が勝ったから私が買ったんだけど。」
 「ちょっとごめん、今のしゃれじゃないよねー。」
 「違うよー。何言ってるのー。もう。。。それでね、その男の子とすっかり仲良くなっちゃって。その後引っ張り回しちゃった。私ってそーゆーとこあるんだよねー。」
 「はは。怖っ。その男の子とは付き合ったの?」
 「ううん。なんか、旅行で東京来てるとか言ってて、その日しか会わなかったの。連絡先とか聞いとけばよかったと思って。」
 「ふうん。探したりした?」
 「そんなに探したってわけでもないけど、音楽関係の店とか入るといるかなーって思ったりしてた。」
 「そっかあ。でも今まで見つからなかったんだ。」
 「まぁ、どこの県の人かも聞かなかったから・・・よみちくんの東京の印象は?」
 「うーん、僕は初体験が東京なんだよねー。」
 「えーっっそうなのー?」
 「そうそう。。。大学の下見で東京に行った時、大学生くらいのお姉さんと仲良くなって、なんかお酒とか飲まされて、そのままホテルとか行っちゃったんだよねー。」
 「そうなんだー。後悔してる?」
 「「いやいや。いい経験だったと思ってるよ(笑)」
 「ふふ。その時の子供がもう小学生になったわよ。今度会ってみる?やっと見つけたお・と・う・さ・ん」
 「う・・・うん。」
 
 
 この作品は、今年6月に亡くなった創業者”てっちゃん”こと江川哲次氏と、今年10月に20年余りの歴史に幕を下ろしたロック喫茶”猫曼魔”に捧げます。
 2002年11月18日 
 
http://homepage2.nifty.com/bunkabu/neko/neko.html

おっきーのコメント
これはちょっとね、ちょっとミステリアスで読んでてドキドキしましたね、ええ、さいごのオチとかが。